僕は自分用のつめ切りを3つ持っています。これは別に用途別にしてあるのではなくて、置く場所を3箇所設けているだけなんですが、僕はよく爪を切ります。今は必ずしもそうではないですが、少し前までは毎日必ず爪を切るのが習慣でした。

「毎日?そんなにつめって伸びるの?」

つめの伸びる速さは、大人の場合で1日0.08〜0.12mmといわれていて、つめ1枚が生え変わるのには、手のつめで約半年、足のつめだと1年弱といわれています。もちろん毎日すべての指のつめを切っているわけではないんだけれど、なんかもう切るというよりは削るみたいな感じは否めません。ゴミ箱の前でひざをついて正座し、音楽をかけながら無心でぷちぷちぷちぷちやっている深夜十二時の佐藤がそこにいます。

そもそも、僕のこの習慣化されたつめ切りは中学1年生の時に始まりました。忘れもしない中学に入って初めての期末試験初日のこと、珍しく夏風邪気味だった僕は登校前に一服の風邪薬を飲んでから出かけたのでした。

当時、風邪はもとよりほとんど病気をしなかった僕は薬というものに縁がなく、数年に一度口にするか、あるいはしないかという典型的な健康優良児でした。そんな僕は、今ではずいぶん改善されて「眠くならない」なんていう宣伝文句がパッケージに出ているものも少なくないですが、風邪薬に睡眠誘発作用があるということをまったく知りませんでした。おまけに薬を飲みなれていない僕には思いっきりその効果が出てしまい、試験が始まるころにはすっかりトリップ状態になっていたのでした。

後日、答案が返却されましたが結果はもちろん最悪でした。しかも当日の謎のトリップ現象が服用した風邪薬にあったことを知った僕の乱れっぷりは甚だしく、まだ削っていない未使用の鉛筆一ダース全部を小刀で半日かけて寸分の狂いもないほどきれいに削るなどの奇行におよび、家人を心配させたのでした。

その後、しばらくして落ち着きを取り戻した佐藤少年は、この苦痛を健康的に和らげるためには何をすべきか考え始めました。そんな時、居間で大相撲中継を見ていた彼の耳に力士のゲン担ぎの話題が入ってきました。

内容は忘れてしまったのですが、力士がおこなうゲン担ぎ、例えば負けたらそれまで伸ばしていた髭を剃るとか、玄関を出るときには必ず左足から出るとかそういうことだったと思います。ふ〜ん、なんてぼんやり見ていた佐藤少年がふと目をやると、目の前には伸びに伸びた手の指のつめがあったのでした。

「ああ、つめ伸びたなあ、、つめ、、爪、、詰め、、そういえば今回の試験も、、、詰めが、、、甘かった、、、ような、、、」

ここまで書けば後のお話を書く必要はないでしょう。それから十余年、佐藤のつめ切りは今夜も順調に行われています。おかげさまで中学、高校の衛生検査では常に模範生徒に選ばれ、最近ではギターを弾くのにも適していていい感じです。ちなみに、そのゲン担ぎをはじめてから成績が上がったかというと、たかがつめ切りの禊ごときで成績が上がるほど世の中は甘くはなく、むしろその直後に父の仕事の都合で転校した僕は、すべての教科書が変わったことや環境の変化に対応できず、成績はどん底、友人関係は最悪という更なる苦難の時を迎えるのでした。

それでも毎晩泣きながらつめを切り続けた僕は(悲しい…)その後、五年の時を経て志望する国立大学に入るんだからあながち効果がなかったともいえないかなあ。さらに切り続けて今、僕は大学院まできてしまいました。信ずるものは救われる、今日の落ちはこんなとことろでよろしいでしょうかね。今夜もつめを切りながら未来を夢見て一呼吸。明日もいい日になりますように。

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